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マダニ麻痺(真マダニ神経毒)

皮膚/被毛疾患ガイドモンシルジャン獣医学アドバイザリー

マダニが分泌する神経毒が原因で、後ろ足から麻痺が始まる緊急の疾患です。マダニを取り除けば、ほとんどの場合回復しますが、呼吸筋の麻痺まで進行すると命に危険が及ぶことがあります。

マダニ麻痺とは?

犬の後ろ足を診察する獣医師
犬のマダニ麻痺は、マダニが吸血する際に唾液腺から分泌する神経毒が、神経と筋肉の接合部での信号伝達をブロックすることで、体がだんだん脱力していく神経系の緊急疾患です。この病気は米国とオーストラリアで最も多く報告されています。本当に重要なのは、マダニを速やかに取り除くことです。脱力は通常、後ろ足から始まり、1~3日かけて前足や呼吸筋へと進行します。呼吸筋が麻痺すると、生命に危険が及ぶ可能性があります。そのため、芝生での散歩後に犬が突然ふらついたり、座り込んでしまったりした場合は、自宅で様子を見ず、すぐに動物病院へ連れて行ってください。

なぜマダニ麻痺が起こるのでしょうか?

マダニの一部の種(オーストラリアのIxodes holocyclusなどの麻痺マダニ)は、吸血中に唾液腺から神経毒を分泌します。この毒素は末梢神経の末端(シナプス前部)での神経伝達を阻害し、筋肉が収縮信号を正しく受け取れなくします。そのため、マダニによる麻痺は神経筋接合部の「シナプス前」障害として分類されます。マダニが一定期間付着して吸血し、体内に毒素が十分に蓄積されて初めて症状が現れるため、早期に発見して除去すれば症状の進行を防げたり、回復がより早まったりします。マダニは暖かくなって活動が活発になる季節、特に屋外での活動が多い場合に注意が必要です。

このような症状が見られる場合は疑ってください。

マダニ麻痺は、症状が後ろ足から始まり、前足や呼吸筋へと上方へ進行していく「上行性麻痺」が特徴です。 - 後ろ足の脱力: 突然座り込んだり、足が抜けたように引きずって歩いたりします - 歩行異常: ふらつき、バランスを保てなくなります - 声の変化: 吠える声が嗄れたり、ほとんど出なくなったりします - 嚥下困難: 水やフードを飲み込みにくく、よだれを垂らします - 呼吸困難: 浅く速い呼吸、横になってハアハアと息切れします - 瞳孔散大: 光に対する反応が鈍くなります
後ろ足に力が入らず横たわっている犬

このような場合は、すぐに動物病院の救急外来を受診してください。

以下の症状は数時間以内に呼吸停止に発展する可能性のある緊急のサインです。自宅で様子を見ず、直ちに24時間対応の動物救急病院へお越しください。 - 四肢が弛緩して立ち上がれない - 呼吸が浅く速くなったり、口を開けてハアハアと息をする - 舌や歯茎の色が蒼白または青紫色を帯びている - 過剰に涎を流し、飲み込めない - 意識が朦朧としていたり、反応が鈍くなっている

病院ではこのように診断します

マダニ麻痺の診断は、全身を丹念に調べてマダニを探すことから始まります。耳の奥、首のしわ、脇の下、鼠径部、指の間など、毛に隠れがちな部位に付着していることが多いです。獣医師は上行性麻痺の症状、マダニの発見の有無、最近の屋外活動歴などを総合して臨床診断を行います。重症筋無力症、ボツリヌス中毒、椎間板疾患との鑑別のために、血液検査や神経学的検査、必要に応じて画像検査を追加することもあります。

治療はまずマダニの除去から始めます。

治療の鍵は、原因となるマダニをすべて駆除することです。獣医師はマダニを物理的に除去したり、全身に殺ダニ成分(フルララナーやフィプロニルなど)を投与して、隠れているマダニまで駆除します。駆除後、24〜72時間以内に症状が徐々に改善することが多いです。呼吸が弱まった犬には、酸素投与や輸液療法、必要に応じて人工呼吸器の支援を行います。また、嚥下が困難な場合は、吸入性肺炎を防ぐために絶食とチューブ栄養管理が必要です。
マダニ除去用ピンセットでマダニを取り除く獣医師の手の様子

マダニ予防製品の比較

項目スポットオンの塗り薬飲み薬(チュアブル)ダニ予防の首輪
主成分の例フィプロニル・ペルメトリンフルララネル・アフォキソラネルデカメトリン・イミダクロプリド
持続期間約4週約4~12週約6~8か月
忌避(寄せつけない)効果あり(ピレスロイド系)なし(吸血後に死滅)あり
水遊び・入浴の影響影響あり影響なし製品によって異なる
猫と同居する家庭での注意ペルメトリン禁止比較的安全成分の確認が必須

製品ごとに成分・年齢制限が異なるため、必ず獣医師に相談してから選んでください。獣医皮膚学の教科書基準でまとめています

自宅でマダニを発見した場合

マダニを素手で潰したり、胴体を破裂させたりすると、唾液腺の内容物がさらに体内に押し込まれる恐れがありますので、マダニの胴体は絶対に潰さないでください。ピンセットやマダニ除去ツールを使って、頭部(口器部分)を皮膚にできるだけ近づけてしっかりと掴み、ゆっくりと一定の力でまっすぐ引き抜いてください。不器用にねじって引き抜くと、口器部分が皮膚に残り、刺激や感染症、膿瘍の原因になることがありますので注意してください。除去したマダニは密閉容器に入れて病院に持参すると、種の同定に役立ちます。噛まれた箇所は消毒し、その後の数日間は発熱、食欲不振、歩行異常などの変化がないか、細かく観察してください。

品種・環境別の注意点

山や草地での散歩が多い子や、コリー系品種(ボーダーコリー、シェットランドシープドッグなど、薬物感受性遺伝子に関連する品種)では、使用可能なマダニ駆除薬が制限されることがあります。必ず獣医師に相談し、安全な成分を選んでください。また、猫と同居しているご家庭では、ペルメトリン系製品は絶対に使用しないでください。猫には致命的な中毒を引き起こす可能性があります。

この記事を監修した獣医師

Dr. Tony — Punnawat Phongkittirak

Dr. Tony — Punnawat Phongkittirak

獣医師

タイのコンケン大学で獣医学を専攻した獣医師で、米国ノースカロライナ州立大学のIVSAプログラムを修了しました。動物病院での臨床経験をもとにペットヘルスケア分野で活動しており、飼い主と獣医師をつなぐデジタル診療環境の構築に取り組んでいます。

よくあるご質問

マダニが1匹だけ付着しただけで、麻痺を引き起こすことがあるのでしょうか?
はい、可能です。毒の分泌量は個体やマダニの種類によって異なりますので、1匹しか付いていない場合でも、敏感な犬では麻痺症状が現れることがあります。発見次第、すぐに除去することが重要です。
マダニを除去した後、症状はすぐに消えますか?
多くの場合、24〜72時間の間に徐々に回復していきます。すぐに走り回れなくても心配せず、呼吸が楽になり、脚に力が戻ってくるかどうかを段階的に観察してください。3日経過しても改善が見られない場合は、再診が必要です。
予防薬を飲ませているのに、マダニに刺されることはありますか?
経口投与の予防薬には駆除効果がないため、マダニが一時的に付着することはありますが、吸血を開始すると死滅します。ただし、投与の間隔が空くと予防効果が低下するため、必ず投与周期を守ってください。
マダニ麻痺と椎間板ヘルニアの症状は似て見えますね。どのように見分ければよいでしょうか?
マダニ麻痺は、両脚が同時に脱力し、急速に前脚や呼吸筋まで症状が進行していくのが特徴です。一方、椎間板ヘルニアは痛みを伴うことが多く、左右の症状に差が見られるケースがほとんどです。見分けが難しいため、必ず動物病院で鑑別診断を受けてください。
散歩から帰ってきた後、どのような点を確認すればよいのでしょうか?
指で毛をなぞりながら、耳の奥、首、わき、股間、指の間などを念入りに触って確認してみましょう。小さな豆のようなものが触れる場合は、マダニの可能性があります。ブラッシングを併用すると、早期発見に役立ちます。

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参考文献

[1] BSAVA Manual of Canine and Feline Dermatology, 4th Edition — Chapter on Ectoparasites and Tick Control

[2] Principles and Practices of Canine and Feline Clinical Parasitic Diseases — Tick-borne Diseases Section

[3] Ettinger's Textbook of Veterinary Internal Medicine, 8th Edition — Neuromuscular Junction Disorders

[4] Shoorijeh S.J. et al., Seasonal frequency of ectoparasite infestation in dogs, Turkish Journal of Veterinary and Animal Sciences, 2008

この情報は獣医学の文献に基づいて作成されており、診断・治療に代わるものではありません。具体的な健康上の問題は獣医師にご相談ください。

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