免疫組織化学(IHC)染色は、組織内の特定のタンパク質を抗体で標識し、腫瘍の正体や発生部位を正確に特定する精密な病理検査です。通常の組織検査では区別が難しい腫瘍の種類や悪性度、治療方針の決定において、重要な役割を果たします。


| 項目 | 陽性の場合の意味 | 主に用いられる腫瘍 |
|---|---|---|
| CD3 | T細胞系リンパ腫 | T細胞リンパ腫 |
| CD20 / CD79a | B細胞系リンパ腫 | B細胞リンパ腫 |
| c-KIT (CD117) | 肥満細胞由来、染色パターンで転移の可能性・予後を予測 | 肥満細胞腫 |
| Ki-67 | 細胞の増殖速度(悪性度) | ほぼすべての腫瘍の予後評価 |
| Melan-A | メラニン細胞由来 | 黒色腫(メラノーマ) |
| Vimentin | 間葉系細胞(肉腫を疑う) | 軟部組織肉腫 |
マーカーの種類と陽性基準は検査機関・腫瘍の種類によって異なることがあります
IHC(免疫組織化学)検査の結果を解釈する際に、必ず知っておいていただきたいポイントです。
IHC(免疫組織化学染色)の結果は、単純に「陽性/陰性」とだけ出ることは多くありません。マーカーごとに「強陽性・弱陽性・一部陽性」のように等級が分けられ、単一のマーカーだけで診断を確定することはありません。通常は複数のマーカーを組み合わせたパネルとして読み解き、H&E染色の結果や臨床情報、画像検査などを総合的に判断して最終診断が下されます。結果書に「~と一致する」「~を示唆する」といった表現がある場合は、100%確定診断ではないことを意味しますので、担当の獣医師と十分に相談してください。

猫ちゃんについては、さらに確認すべき点がございます。
猫の消化管リンパ腫は、免疫表現型(T細胞型/B細胞型)が予後と密接に関連しています。教科書的な報告では、小腸に発生する小細胞リンパ腫の多くはT細胞系であり、小腸のT細胞リンパ腫はB細胞腫瘍に比べて長期予後が良好であることが知られています。また、腫瘍の発生部位も免疫表現型や予後を予測する手がかりとなります。このように、猫では同じリンパ腫でも免疫表現型によって治療方針や予後が異なるため、免疫組織化学染色(IHC)でT細胞型かB細胞型かを正確に区別することが重要です。検査を依頼する際には、どのマーカーパネルで判定するかを主治医と事前に確認しておくとよいでしょう。

タイのコンケン大学で獣医学を専攻した獣医師で、米国ノースカロライナ州立大学のIVSAプログラムを修了しました。動物病院での臨床経験をもとにペットヘルスケア分野で活動しており、飼い主と獣医師をつなぐデジタル診療環境の構築に取り組んでいます。
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[1] Meuten DJ, Tumors in Domestic Animals, 5th Edition, Wiley-Blackwell, 2017
[2] Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology, 6th Edition, Elsevier, 2019
[3] Veterinary Immunology, 11th Edition, Tizard IR, Elsevier, 2021
[4] Fundamentals of Veterinary Clinical Pathology, 3rd Edition, Stockham SL, Wiley-Blackwell, 2013